はいいろオオカミ+花屋 西別府商店
森の小さな灯

はいいろオオカミ+花屋西別府商店

オリジナル作品 第4作目

 

 

「森の小さな灯」

 

 いつもの帰り道、目を凝らすと見えてくる無数の光の種子(たね)

導光は脇に逸れて、水面を渡り、森々へと続いていく。

風に舞い、雨に穿たれ、それでも大地に根を張り、芽吹いた光はやがて

明日を照らす希望となって、いつまでもきみを照らしてくれるをこと願う。

 

 私がその光に気がついた晩は、思い返してみると、「いつもの」、帰り道

ではなかったのではないか・・・

そう、私はあの晩、きみと口論をして俯きながら、森の小道を進んでいた。

その道そのものはいつもの帰り道だったが、将来への不安や小さな憤りを

抱えて、日が沈みはじめた木々の陰に目を凝らして足を進めているときだ

った。

そろそろランプを灯そうと、少し湿気たマッチを擦ることに気をとられて

いると、最初は一つ小さく瞬き、また一つと増えて草葉の隙間へと小さな

光は広がり、その光は私を導く様に森の中へとぼんやりと続いていった。

 今になって思えば、何故だろうか、私は何ひとつも疑うことなくその

光を夢中になって追いかけた。

気が付くと小川を渡り、沼地を抜けて、身体中泥だらけになり、じっとり

と水気を吸い、重くなったブーツを引きずりながらも、森の奥へと進んで

いったのだった。

しばらくすると、そこには打捨てられ、朽ちはじめた邸宅があり、光はそ

の中へと続いていた。さすがに少し気が引けたが、意を決して進んでみる

と、そこには時間と自然が覆い尽くした中庭に小さな光を宿す、植物の灯

が無数に瞬いていた。

私はその光景の美しさに息をすることも忘れて、しばらくの間、ただただ、

そこに佇んでいた。

 

 きみはきっと、こんな話は信じてくれないと思うけど、私の掌の中には

その小さな光る種子がある。

私はこれから前線へと配属されて、きみへの手紙もこれで最後になるだろ

う。

この「森の小さな灯」の種子と、あの日、きみと口論になって決めること

が出来なかった、私たちの新しく生まれてくる子供の名前をここに記して

送ることにする。未来の平和を信じて・・・

 

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「Нада?」

 

 遠くから母が私を呼ぶ声が聞こえてきた。

この光瞬く植物の灯の庭園も私の両親が築いた「不思議な遺産」。

何度も読み返した父から母への手紙を仕舞うと、腰を上げて二つの長く

のびる影の方に向かって歩き出した。 

 

 

Sense of wonder - 不思議の家系の物語-

「森の小さな灯」より

 

*Нада: (ナージャ) は Надежда: (ナデージュダ) の愛称、ロシア語で

「希望」を意味する女性の名前

 

 

次回、展示会の出品は水犀(東京・蔵前)での展示会となります。

2019年 3/15〜

 

「小さな」シリーズ - -
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