はいいろオオカミ+花屋 西別府商店
小さな森
はいいろオオカミ+花屋 西別府商店

オリジナル商品。

「小さな森」のショートストーリー


 

小さな森
 

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 

 私は未だ見ぬ植物に憧れを抱いて、志を同じくする学者と共に航海へ出ただけなのに・・。
転覆した船から投げ出された、無数の植物の残骸と、ただひとり辿り着いた孤島で、私はここ数日の出来事を回想していた。

 私は幼少の頃から植物、殊に原始的なものや野草が好きで、将来は植物を研究する学者になることを夢見ていた。
だからこそ、世界の情勢がますます不安定になる中で、この調査団に同行出来ることになったときは心の底から喜んだものだった。
 

しかし、実際は植物の調査というのは建前で、現地では略奪まがいの行為や、植物とはおよそ関係ないと思われる任務に就く時間の方が長かった。
そんな生活に疑問を抱く中、同じくただ植物に触れることを求めて調査団に加わった数人の仲間とともにあの「森」を見つけたのだった。
 

 そこには私たちが見たこともない植物が溢れており、任務の合間を縫っては採集を続ける日々を過ごしていたが、残念ながらその幸福は長く続くものではなかった。

そして、あの日、私はいつもの様に任務を終えて「森」に向かっていると、遠くに重機を稼働させている音が聞こえきた。
通い慣れた道を急ぎ足に近づいて見ると貴重な植物の宝庫であるその「森」が今まさに薙ぎ払われいる姿を私は目の当りにしたのだった。
私たちの活動は見逃されていたのでも、見過ごされていたのでもなく、常に見張られていたことに、そのとき初めて気付かされた。
 

 それからの出来事は私自身も朦朧としていて、あまり記憶は定かでは無い。
一緒に採集に励んだ仲間たちと数人で、夜明け前に調査団を抜けだし、追われる身となりながらも命からがらに船を駆り大海へと抜け出した。
本国に残してきた家族や植物を愛する者たちにあの「森」で採集した植物を届けたい。その一心で一か八かの賭けに出たのだった。
 

そして、私はただひとり残された。
 

 これから私はあの「森」で採集された植物の断片をテラリウムに詰めて海へ放とうと思う。

誰か植物への愛情を持った人の手に渡ることを願い、
「Сохраните этот маленький лес (この小さい森を大切にしてください)」というメッセージも一緒に詰めた。
 

どうか、私のこの願いとあの失われた「森」が人々の元へと届きます様に。
 

親愛なる「私が見ることの出来ないあなた」へ。

 

----------------------------------------------------------
 

これは私の曾曾祖父が世に残した一通の手紙。
心ある人の手に渡り、私たち家族の元に帰ってきたという。
植物のテラリウムは長い間、海を渡ったせいですっかり干涸びてしまったけれど、貴重な研究材料になったものもあるらしい。

その無数の標本は、我が家系の不思議な「遺産」とともに今も静かに納屋に仕舞われている。

 

Sense of wonder -不思議の家系の物語-
「小さな森」より

「小さな」シリーズ comments(0) -
Comment








<< NEW | TOP | OLD>>