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「小人の想い」のショートストーリー
小人の想い
毎朝、目を覚ますと枕元に増えてゆく、なんとも小さな小さな花束。
姿の見えない小人の小さな想いが花束となって私の元に届けられらる様になり、既に40日目の朝を迎えていた。
姿の見えない[何か]を私が[小人]と断言するのには、理由がある。
それは今日から約二月程前、秋晴れがとても気持ちの良い朝のこと、前日まで続いた強い風雨がまるで嘘だったかの様に、この静かな森には暖かな陽射しが注がれていた。
木漏れ日の中にふと目をやると、大きな切り株の上に他の木の幹から落ちたらしい少し大きな枝が横たわっていた。
私はそれを何の気もなしに退けて、その切り株に腰掛けた。
森で採集した木の実をハンカチーフに広げてみたり、冬ごもりの準備だろうか、せわしなく動き回る鳥たちの様子を眺めたりして半刻程の時間をそこで過ごした。
正午を知らせる鐘の音を遠くに数え、切り株から立ち上がると、そこにはどこまで続いているのか先が見えない、二寸程の穴が空いていた。
なんとなく気になりその穴を覗き込んでみると、遠くに小さな灯りの様なぼんやりとした光が瞬いていた。
私は少し驚き身を引くと、小さな風鳴りに混じって「спасибо-ありがとう-」そうとしか聞こえない音を私は耳にした。
その話を家に帰って母親や友人にしてはみたが、誰にも信じてもらえず、しばらくして私自身もそれは勘違いだと思う様になっていた。
ところが、ある日、私が目を覚ますと枕元に人が作ったとは思えない小さな花束がひとつ置かれているのを発見したのだった。
私はその時にあの森で起こった出来事が夢でも、幻でもなかったことをはっきりと確信した。
しかし、その時にはもうこのことを誰かに話そうという思いも不思議となくなっていた。
それから毎朝、私の元には[小人]からのささやかな贈り物が届く様になった。
雨の日も風の日もそれは休むことなく、私の元に届けられた。
雨の日は花束を作る素材に窮するのか、小石や不思議なものが混じっていることもあった。
私は届いた日にちごとにその花束を木の板に留めて保管することにして、良く晴れた日は白い板に、雨や風、雪など天候の悪い日は黒い板にそれを留めた。
一方通行ではあるけれど私たちはその交流をひとつの儀式の様な厳かさを持って遂行していたと思う。
この儀式がいつまで続くのか、そんなことを考えない日もない訳ではなかったが、私はこの[小人の想い]を毎朝受け取ることが日課となっていた・・。
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と、私はここまで読んで、先日亡くなったばかりの祖母の日記を閉じた。
祖母の大きな秘密を知ってしまった様で、(あのおおらかだった祖母は「それ」をささやかな秘密と言うかもしれない。)いたたまれない気持ちになった。
そして、私は目の前に山積みになっている、木箱の中身を伺い知ると呆然と立ち尽くした。
Sense of wonder -不思議の家系の物語-より